カウントダウン

誰にも期日はわからない

猫へ

あなたと出会ってからちょうど12年経ったね。 初日は新しい環境を怖がって、ベッドの下から出ないまま、一晩過ごしてた。心配になって友人Aにも来てもらい、あの手この手で誘っても、水もごはんも食べてくれなかった。臆病なのに頑固なところは、小さい頃から変わらなかったね。

震災の時には、一緒に怯えながら逃げたね。最初の揺れの後、ベッドの隙間にはまって動かないあなたを見た時には、死んじゃったと思った。生きて、息をしているとわかって、私はすぐに抱き上げて、潰れそうなアパートから連れ出したよね。普段は乗り物が大嫌いなのに、暴れず泣かず、ずっと大人しくしていたね。

病気を機に実家のある北海道に帰る日は、稀に見る悪天候で、揺れる機内であなたは一人、どんなに不安で怖かったんだろう。家に着くまで硬直していたね。家には先住猫が2匹いたから、あなたにとっては居心地が悪かったかも知れない。最初の1か月くらいは、私の部屋から出ようともしなかった。ほんとにあなたはこうと決めたら譲らないよね。

私が乳がんの手術を受ける時は、当初2週間の予定が4週間入院することになり、あなたと離れ離れになったね。ようやく退院してあなたに会った時、私は驚いたよ。目を丸くして、私に恐る恐る近寄り、後ろ足だけで立ち上がって顔を確認してた。きっと、私はもうこの世にはいないんだと思っていたんだね。

それからインプラント交換、乳頭再建と手術で入院が多くなったけど、あなたがいたから早く帰ろうと頑張れたよ。

あなたが不調になり、走ると息切れするようになり、あまり遊べなくなったよね。それなのに、出先から帰ってきた私をいつも、走って迎えにきていたね。私はその度に心配しながらも、とても嬉しかった。

あなたの余命宣告を聞いた時、私はシャワーを浴びながら号泣したよ。あと10年は一緒にいられると思っていたのに、3か月なんて。 それでもあなたは、頑張って生きたよね。

つらい思いも、怖い思いも、痛い思いもいっぱいしているはずなのに、まるで私を心配するように寄り添っていた。母であり、姉であり、時に娘みたいに甘えるあなた。私はいつも救われていました。

病気が進行して血が溢れ出るようになっても、あなたはめげなかったね。左手からの出血が止まらない時には、必死に手を縛って患部を押さえていたけど、暴れずじっとしていたよね。信頼してくれているんだなって、あなたとの絆の深さを知りました。

最近は食が細くなって、液体状のささみくらいしか舐めなかったのに、ここ数日はむしゃむしゃ食べてたね。よく食べ、よく出して、よく寝るあなたを見て、もしかしたら年が越せるのではと思っていたよ。

急変したのは亡くなる1時間前くらいだったね。鼻血が止まらない中、ご飯食べて、水も飲んで、トイレを済ませてから発作が起きた。苦しむあなたに何もできなかった。血を吐きながら、潤んだ目で最後に私を見ながら旅立ったね。 あなたを看取ることが1番の希望だったから、最期まで寄り添えて私は良かったと思ってる。繰り返し絶命の瞬間を思い出すけど、これから先はあなたとの毎日を思い出すようにもなりたい。

私と出会ってくれて、どんな時でも愛してくれて、身も心も寄り添ってくれてありがとう。 あなたは私の人生の宝です。 あなたを残して死ぬのだけは嫌だと祈ってきたから、無事に見送れて私は本望だよ。 もう少ししたら私もあなたのところに行くから、またすぐ会えるね。それまで待っててね。寂しくなったら夢でもいいから会いに来て。いつでも大歓迎だよ。ぬいぐるみをくわえて、「これをあげるから遊んで」って伝えてくるあなたが大好き。 あなたを見習って、最期までめげずに強く生きるね。